行動変容とは字のごとく、人の行動が変わることを指すが、コミュニケーションにおいて相手の行動を変えることは一番難しいこと。
意図的に介入したり、変容を強制したりして、こちら側が「相手を変えよう」という思いが伝わってしまうと、相手は抵抗し、より変化は起こりにくくなる。
最初からジャッジをすることなく、相手と同時に自分も変わっていく意識が必要。
お互いにとってより良い未来をつくるために、すごくヒントになりそうな話がたくさんだった。
「やる気」で変われないのは、生活磁力やパターンがあるから
保健医療分野において、それが維持されるには5つのステージがあると考えられており、相手がどのステージにいるかによってアプローチを変えていくことが必要。
- 無関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っていない
- 関心期:6ヶ月以内に行動を変えようと思っている
- 準備期:1ヶ月以内に行動を変えようと思っている
- 実行期:行動を変えて6ヶ月未満である
- 維持期:行動を変えて6ヶ月以上である
とはいえ、相手のステージに合わせて対応したとしても、たいていはうまくいかない。
人間が行動を変えていくのには時間がかかるもの。
種から発芽させるのはけっこう難しいので、苗木にして渡し、それを育ててもらうことで行動変容を起こしていくイメージを持つと良いという。
生活空間はある種磁力のようなもの。
ある空間にいるとその気になるのに、そこを出るとまた日常に戻ってしまった、という経験は多くの人が持っているのではないのだろうか?
自分の頭に行動変容の意識があったとしても、家族に協力してもらおうとしたら反発を受けたり、慣れた生活磁力がなかなか行動変容を起こさせてくれない。
やらなきゃいけないと思ってできなかったら、今度は無力感だけが残ってしんどくなったりする。
1970年代にアメリカで大規模に調査されたフラミンガム・スタディで、カリフォルニア大学のブレスロー教授が提唱した「7つの健康習慣」がこちら。
- 適切な睡眠時間
- 喫煙をしない
- 適性体重を維持する
- 過度の飲酒をしない
- 定期的に運動する
- 朝食を毎日食べる
- 間食をしない
50年も言い古された健康習慣が示すのは、これらは「わかっちゃいるけどできない」項目一覧。
今さらこれらを良くない、だから変えましょうと言ってもナンセンスで、そこには生活磁力やパターンがあり、できない理由がある。
そのパターンを一緒に見つけ、そのパターンを核にして生活全般を覆っているココロの傾向を見つけ、打破する力を見つけていく。
合いの手を打ちながら、ちょっとずつずらしていく(合気道)。
状況を打破する新しい「苗木」を心の中に植えていくと、徐々に変わっていく。
少しずつ変化が起きだすと、ある日突然ガラッと変わることがあるのだ。
そういえば、麹町中学校の工藤先生も「いつかオセロがひっくり返るようにガラッと変わるときが来る」と言っていたっけ。
ミルトン・エリクソンの「解決思考アプローチ」
人間はダメなところを変えようと思ってもうまくいかない。
その人の長所や得意なところに目を向け、会話におけるパターンを解析し、そのパターンに少し変容を起こしていくと良い。
何か問題を解決しようとするとき、私たちが実際に、どう考え、どう行動しているか整理してみると2つの方法がある。
それが問題思考と、解決思考だ。
問題思考
「どうしてこうなったんだろう?」という問いを立てる(=過去思考)
→原因解明の努力をする
- 原因が判明し対応可能(テレビの故障で部品を取り替える)
- 原因は判明したら、対応できない(故障テレビの部品がない)
- 原因が多数あり、対応が難しい(不登校)
- 原因が不明で対応できない(難病)
解決思考
「解決したらどうなっているの?」という問いを立てる(=未来志向)
→解決イメージ(解決状態・目標)を探る
→解決を実現するための手立て(リソース)を探す
解決思考は、これまでの問題対応をドラスティックに変えていくことができる。
問題を問題として認識してうまくいく場合もあるが、原因を追求してもうまくいかないときには解決思考を用いてみると良い。
ただ、どちらのアプローチが適切かは扱う問題によって異なる。
解決思考アプローチの3つのグランド・ルール
- うまくいっているなら変えようとするな
- 一度でもうまくいったなら、またそれをせよ(例外探し)
- うまくいかないなら、何か違うことをせよ
大切なことは(悪循環ではなく)良循環を増幅させること。
少しでもうまくやれていることの方に目を向け、それをまた行えるようになれば、良循環が増幅されていく。
さらに、何が正解かを考えるよりも、何か違うことをすること自体が悪循環を断つことになることもある。
実際③は、どうしようもないときに取り入れるレベルなので、ほとんどのケースは①②で解決に向かっていくそうだ。
ユングやフロイトと比べると、ミルトン・エリクソンは「努力をしないでおこう」「原因を追求しすぎないでいこう」という姿勢だった。
むしろ、エリクソンの考えに出会うまでは、肩に力が入りすぎていた、原因を追求しすぎていたのかもしれない。
相手の能力を引き出す「リソース探し」
その人の財源、長所、才能はなんだろう?に目を向ける習慣がコミュニケーションをうまくいかせる。
家を建てるためには設計図が必要であり、さまざまな材料が必要になる。
カウンセリングにおける「解決」とは「クライアントが望む未来の実現」。
設計図は「どうなったら一番いいんだろう?」を一緒に考えていくことであり、そのための材料は「相手の持つまたはその周りにあるポジティブな部分」のこと。
長所、特技、能力、努力、頑張り、過去にできたこと、未来への夢や希望、恵まれている環境、協力してくれる人や仲間、など「解決」にたどり着くために使えるもの、これらをリソース(解決のための材料)と呼ぶ。
リソースを見つけるのが上手いひとほど、相手の能力を引き出していける。
本人も日々の中で自分の良さを忘れていることが多いので、改めて言葉にしてもらうと起点にできる。
レンガでも木でもセメントでもなんでも良いけれど、材料がないと家は建てられない。
解決思考アプローチの大部分は、極論「リソース探し」と「解決のイメージづくり」。
さらに、「解決のイメージは」一回決めたら終わりではなく、上書きしていくもの。
それを一緒に共有できる相手でいてあげる、進化のプロセスや過程を共有することが大切なのだ。
ワーク:GOOD &NEW
- 過去24時間以内に起こったGOOD(良いこと)とNEW(新しいこと)を発表する。
毎日サプライズが起こるわけではないし、新しいことがいっぱい起こるわけでもない。
私たちは意識しないと昨日と同じように物事を見ようとし、昨日のコピーで今日1日を過ごしてしまう。
けれど、当たり前の中に当たり前じゃないことを探していくアンテナを立てることで、日常に変化が生まれてくる。
私がこのとき気づいたことは2つ。
- 自分が自己開示すると、相手も自己開示し始める
- 思っていることを伝えても意外と大丈夫。頼られると人間は嬉しい
近くの人間関係こそ、固まってしまいがちだから、意図的に見直さないと、だ。
「リソースの拡大」褒められることは自分の出発点になる
「ジョハリの窓」はけっこう知っている人も多いと思う。
自分が知っている | 自分が知らない | |
他人が知っている | 開放の窓 | 盲点の窓↓ |
他人が知らない | 秘密の窓→ | 未知の窓 |
この図でいう右下の「未知の窓」が大きいと、自分でもわからない作用で自分の心が振り回されることがある。
そしてここは他人もわからないので、他人の介入もなかなかできなかったりする。
では、未知の窓を小さくするにはどうすればいいのか?
- 自分が気づいていない部分(盲点の窓)については、家族や友だち、周りの人に聞いてみる
- 他人が知らない部分(秘密の窓)については、自分の内側を信頼できる人に自己開示していく
結果、開放の窓が広がり、未知の窓が小さくなり、自分の可能性に気づくことができる。
未知の窓が小さくなるということは、世界と自分が一致し始めること。
そうするとグッと生きやすくなるという。
カウンセリングの場合、リソース探しは盲点の窓に着目する。
相手の行動に気づき、本人が気づいていない本人の良いところを伝えていくことが大切。
9歳まではとにかく褒めてあげることが大切。
「それ才能かもね」という言い方が心に残って良いのだという。
- 褒められているということは自分の出発点になる
- 褒めることは相手の居場所をつくることになる
効果的に注目してあげることは、その人にとって行動変容の発芽になり、場合によっては生涯にわたってよりどころとなる。
リソースとしていける7つの力はこちら。
- 共感力
- 傾聴力
- 観察力
- 記憶力
- 編集力
- 伝達力
- 達成力
一緒にいる人に対して、場面場面で注目できる余裕があるか。
人は自己否定からは変わることができない。
だからこそ、自分の土台は自分が得意なこと、褒めてもらって嬉しいことで固めていかないといけない。
「自分はダメだから」からスタートしてしまうと、変わっていく土台を否定してしまうことになるので、その上にいくら新しい情報や習慣を取り入れても、土台からぐらついてしてしまう。
自分でも気がついていないリソースを、他者から改めて見つけてもらうことで、人は「自分を認める」という土台をしっかりつくっていくことができるのだ。
褒めることは先にやったもん勝ち。
相手との関わりの中でリソースを見つける視点を養うことが大切だ。
人間は自分が思い込んでいるように相手を見たり、覆い隠してしまう部分があるから。
言葉にしなくても良いので、相手を観察し直すクセや、フィルターを外す意識を普段から持っておくことが大切。
行動変容に生かしていくときには徹底的に褒めること(コンプリメント)が取り入れられる。
そして、褒めることは簡単に見えて、実はとても奥が深い。
相手を褒めるときに、大切なことは2つ。
- その人のリソース探しをできる観点を養うこと
- それを言葉にする語彙力を持つ
相手の心の中に入って「どう言われたら嬉しいか」を想像して、「この言葉は言われたら嬉しいはず!」というところまで入り込んで言葉を発する。
コンプリメンタルとは、「褒める」という意味以外にも、認める、賞賛する、尊敬や経緯を示す、労う、いたわるという意味がある。
ワーク:コンプリメントシャワー
- 指名された人は自分の自慢を話す
- 聞き手の人たちは背中に向かって、あらゆる角度から褒める
褒められて嫌な人はいない。ちゃんと見てくれている人がいるというのは安心感になる。
そして、自分が褒められることがないと、人のこともなかなか褒められない。
また、どんなことでもポジティブに見てみようという意識も大切。
- 万引きのリソースとは?
周りをよく観察できつ、物怖じしない、ダッシュ力、状況判断力、自分の欲求に対して正直であることetc.
- コロナのリソースとは?
自然環境が良くなった、家族の時間が増えた、どこででも働けるようになったetc.
- 不登校のリソースとは?
大人に屈しない力、家で楽しめる力、真面目、自分の意思を通す、孤独に耐える力がある、熱中するetc.
ブレインストーミングワークによって、通常問題行動と呼ばれる行為へのリフレーミングをかけてみる。
「不謹慎だ」と思考を止めるのではなく、枠組みを外してまっさらな感じでプラスの部分を集めていくと新しい発想が生まれてくる。
人、モノ、ことを多面的に見ることの必要性を理解したり、実際にそうするための訓練になる。
「パターンへの介入」をデザインする
おのころ先生自身が、原因を探して理由を潰していけば改善していくという思い込みでカウンセリングをしていたのだが、それではうまくいかないとわかった。
原因・理由はどうしてもネガティブ思考になるし、原因探しは暗にクライアントを攻めることになる。
それよりも、パターンを構成するいくつかの細かな点に介入して、やがてパターンを変えるか、消失させるを狙う。
細かな点で介入を繰り返すと、やがて蓄積していって、良い方向へ変化することが期待される。
クライアントは小さな介入にしてはそう反対しない、それが積み重なって大きな変化を生んでいく。
会話でのちょっとしたパターン介入例「可能性療法」
- 過去形に言い換える=過去の自分を客観化できるチャンスを与える
- 全体から部分に移行する(何もかも→たいてい)=うまくいく場合もあるというチャンスを会話の中に入れ込む
- 事実ではなく感情として言い換える=事実は置いておいて、あなたはそう感じているんですね、と伝える
- 質問とは違ったかたちで本人への注目を与える(暗に本人の尊重を守る)
- 感情を感じたときに違う行為を入れ込んでいく、その行為から意識をずらす
- それはいつのタイミングですか?=質問をずらして問題を客観視できるように促す
- (やめたい)その行為をしていないときは何をしていますか?=例外の方法
- それが起きたときどんなことに気づきますか?=ジャッジをせず、問題を細かくしてあげる
- 漠然としている内容を細かく具体的にして、気持ちを分断していく
パターンに揺さぶりをかける、意表を突かれると今までと違う思考が生まれてくる。
決して原因を追求したりせず、「それと違うパターンはありますか?」という投げかけをしていく。
大きな川の流れにちょっとずつ力を入れて方向性を変えて、大きなうねりを変えていく。
ストレス解消の方法としてアメリカの医学論文に取り入れられたのが、合気道。
西洋人は、ストレスをなんとかしないといけないとガードしたり、ストレス自体をないものにしようとしたり、打ちのめそうとしたりする。
一方、東洋の発想の中には合気道という方法があるが、これは相手の力を利用して別のものを生み出すという方法。
ジャッジするということは、相手をいいか悪いか判断して、悪いならそれをなくしていいものにしましょうというすげ替えだけれど、合気道の考えは、相手のパターンを少し変えて別のものにしてしまうということ。
そのためには観察することが大事で、自分と相手とのパターンを客観的に見ていないと、それを変えることはできない。
相手を否定せずに、別のものをつくり出すように自分を生かす。
小さな介入の中でいつもと違うパターンを生み出していくことで、相手が知らないうちに行動変容してしまう、ということが起きる。
相手を否定することからは相手は変わらない、パターンの強化が起こるだけだ。
相手をよく観察し、今まで使ったことのないパターンをいろいろ想像して、実行してみる。
介入するときはできるだけポジティブに、相手の良いところを見ることで、何かしら状況は変わってくる。
ちょうど、新しい部署で、仕事がうまくいってなかったころで。
在宅勤務にも慣れてきた一方で飽きがきていて、背中が痒くてたまらなかった。
おのころ先生流に言うと、背中に現れる症状は、自分が見たくないもの、向き合いたくないもの。
言いたいことがいえていない、その状況に煮詰まっていたのかもしれないなーと。
相手をこちらの思い通りに変えようとしない、褒めることで相手の居場所を用意する、という解決策をもらった気がした。
そして、相手のパワーさえも利用して、自分のエネルギーに変えられたら。
合気道のように、エネルギーを昇華させていくということこそが、枠組みの外からの解決だなーとも思わされた。
少しずつ本質に働きかければいつかひっくり返る、そんな希望をもらった時間だった。